自転車事故での高額賠償額っていくら?
2020(令和2)年4月、東京都では「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が施行され、自転車利用者の賠償保険等への加入が義務化されました。
東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例
(自転車利用者の自転車損害賠償保険等への加入等)
第二十七条 自転車利用者(未成年者を除く。以下この条において同じ。)は、自転車の利用によって生じた他人の生命又は身体の損害を賠償することができるよう、自転車損害賠償保険等に加入しなければならない。
(保護者の自転車損害賠償保険等への加入等)
第二十七条の二 保護者はその監護する未成年者が自転車を利用するときは、自転車の利用によって生じた他人の生命又は身体の損害を賠償することができるよう、自転車損害賠償保険等に加入しなければならない。
出典:東京都都民安全推進本部『東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(令和2年4月1日施行)』
条例自体は保険の加入義務のみならず、自転車を安全に利用するための行政や販売業者、利用者等の責任が規定されています。
全国でも2015(平成27)年10月に初めて兵庫県で導入され、2020(令和2)年4月時点で36の地方自治体で義務化や努力義務とする条例が制定されています。
■地方公共団体の条例制定状況(令和3年4月1日現在)
加入が 「義務化」 |
都道府県 22自治体 宮城県、山形県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 政令市 10自治体 仙台市、さいたま市、千葉市、相模原市、静岡市、名古屋市、京都市、堺市、岡山市、福岡市 |
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加入が 「努力義務」 |
都道府県 10自治体 北海道、青森県、茨城県、千葉県、富山県、和歌山県、鳥取県、香川県、徳島県、高知県 政令市 1自治体 北九州市 |
出典:国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
出典:公益財団法人日本交通管理技術協会「自転車安全利用条例制定自治体」
条例が制定された背景には自転車の事故による高額な賠償が増えていることに起因しています。
近年では自転車通勤が増えており、事故は他人事ではありません。
そこで、今回は裁判所が判決を出した高額な賠償事案をご紹介します。
自転車事故の件数
そもそも自転車の事故はどのくらい起きているのでしょうか。
警察庁の統計によると、2020(令和2)年に発生した交通事故約31万件のうち、自転車が関係した事故は6.7万件あるそうです。
平成24年 (2012) |
平成25年 (2013) |
平成26年 (2014) |
平成27年 (2015) |
平成28年 (2016) |
|
---|---|---|---|---|---|
交通事故 発生件数 |
665,157 | 629,033 | 573,842 | 536,899 | 499,201 |
自転車事故 発生件数 |
132,051 | 121,040 | 109,269 | 98,700 | 90,836 |
自転車関連 構成比 |
19.9% | 19.2% | 19.0% | 18.4% | 18.2% |
平成29年 (2017) |
平成30年 (2018) |
令和元年 (2019) |
令和2年 (2020) |
前年増減数 | |
交通事故 発生件数 |
472,165 | 430,601 | 381,237 | 309,178 | -72,059 |
自転車事故 発生件数 |
90,407 | 85,641 | 80,473 | 67,673 | -12,800 |
自転車関連 構成比 |
19.1% | 19.9% | 21.1% | 21.9% | – |
出典:警察庁交通局「令和2年中の交通事故の発生状況」を基に作成
全体の事故発生件数と同様に、自転車による事故件数も年々減少を続けています。しかし交通事故全体に占める自転車事故の割合は増加傾向にあり、自動車や二輪車などと比べ減少度合いが低いと言えます。
自転車事故の内容をもう少し見てみましょう。自転車事故で相手方となるのは自動車がもっとも多く、次いで二輪車、歩行者が続きます。また事故発生時に自転車利用者側に何らかの交通違反があった割合が2020(令和2)年度では65.1%と3分の2以上になっています。
相手当事者 | 平成28年 (2016) |
平成29年 (2017) |
平成30年 (2018) |
令和元年 (2019) |
令和2年 (2020) |
---|---|---|---|---|---|
自動車 | 76,961 | 76,036 | 71,330 | 65,929 | 54,319 |
二輪車 | 4,635 | 4,587 | 4,248 | 3,672 | 3,306 |
歩行者 | 2,281 | 2,550 | 2,756 | 2,831 | 2,634 |
自転車相互 | 2,588 | 2,749 | 2,973 | 3,030 | 2,618 |
自転車単独 | 1,559 | 1,628 | 1,774 | 2,692 | 2,958 |
その他 | 2,812 | 2,857 | 2,560 | 2,319 | 1,838 |
合計 | 90,836 | 90,407 | 85,641 | 80,473 | 67,673 |
出典:警察庁交通局「令和2年中の交通事故の発生状況」を基に作成
事故の相手方のなかで、歩行者に関しては2011(平成23)年の2,806人から減少傾向にありましたが、近年は増加傾向にあります。
上記の数字は、警察庁が把握している件数であり、実際の事故件数はこれ以上あるといわれています。少し古いデータですが、一般財団法人日本自転車普及協会が2006(平成18)年度に行った調査によると、自転車との事故に遭った歩行者のうち8割が相手に逃げられる等されたため、特に何もしなかったと回答しています。
参考:一般財団法人日本自転車普及協会「自転車乗用環境の整備に関する調査について」
自転車事故の高額賠償
それでは判決で出された自転車事故の高額な賠償事例を見ていきましょう。
判決認容額※1 | 判決日 | 被害者の職業等 | 被害者 の状態 |
加害者の職業等 |
---|---|---|---|---|
9,521万円 | 神戸地裁 2013/7/4 |
62歳女性 | 後遺障害 | 11歳男子 小学生 |
9,266万円 | 東京地裁 2008/6/5 |
24歳男性 会社員 | 後遺障害 | 男性 高校生 |
6,779万円 | 東京地裁 2003/9/30 |
38歳女性 | 死亡 | 男性 |
5,438万円 | 東京地裁 2007/4/11 |
55歳女性 | 死亡 | 男性 |
4,746万円 | 東京地裁 2014/1/28 |
75歳女性 | 死亡 | 男性 |
出典:一般社団法人日本損害保険協会「自転車事故と保険」を基に作成
- *1 判決認容額とは、上記裁判における判決文で加害者が支払いを命じられた金額です(金額は概算額)。上記裁判後の上訴等により、加害者が実際に支払う金額とは異なる可能性があります。
2番目の男子高校生の事故では相手方も自転車利用中でしたが、それ以外は歩行者との事故です。また上記の事故ではいずれも加害者側に法令違反があったとされています。
自転車を利用するときも、自動車と同様に周囲の状況を確認し、道路交通法などの各種法令に違反しないよう注意する必要があります。
もう一つ恐いデータがあります。警察庁が2017(平成29)年に発表した調査によると、自転車対歩行者の死亡重傷事故の加害者299人のうち、損害賠償責任保険等に加入していた人の割合は60%、残りは未加入28%、不明12%だったそうです。
未加入で高額な賠償を求められたら、被害者、加害者ともに生活に多大な影響を及ぼすでしょう。加害者の中には自己破産に追い込まれた人もいるとの新聞報道があります。
参考:警察庁交通局「 自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」
参考:産経WEST【関西の議論】『母親驚愕「息子の自転車事故の賠償金9500万円」の“明細”は…』
まとめ
自転車といえど歩行者とぶつかった場合、相手方に大きな損害をあたえる可能性があります。自動車であれば自賠責保険、自動車保険に加入するように、自転車でも条例のあるなしに関わらず、万一に備えて賠償保険の加入が必要です。