ウーバーイーツの保険に潜む危険?

鬼井さん

うちの会社でも副業ができるようになったから、なんかやってみようと思うんだ。

イヌくん

本業に支障が出ないように、隙間時間で自分の得意分野を生かした副業をしている人も多くなってきたからいいと思うよ。

ニッコリ鬼井さん

「ウーバーイーツ(Uber Eats)」なら、自分の好きな時間にできて、手軽に始められそうだな。

イヌくん

自転車やバイクで配達しているのを街中でよく見かけるね。でも、もしものときも考えておかないといけないよ。

焦る鬼井さん

えっ・・・?

ウーバーイーツの補償

自宅にいる時間が増えるのに比例して、急激に伸びてきたのが「ウーバーイーツ」ではないでしょうか。ロゴ入りのバッグを背負って、自転車で疾走する姿は、都市部では当たり前の光景になりましたね。
一方で急拡大にともない配達員の事故も発生しています。配達員で組織されているウーバーイーツユニオンの報告書によれば、分析に用いた事故31件のうち、約26%が他の車両との衝突事故と最も多く、次いで転倒事故(22.5%)、追突事故(16.1%)、接触事故(12.9%)の順になっています。
出典:ウーバーイーツユニオン「事故調査プロジェクト報告書」

これに対して事業を展開するウーバージャパン社は、2019(令和元)年10月にそれまで提供していた対人・対物賠償責任に加え、「傷害補償制度」をスタートさせました。

対人・対物賠償責任
配達中の事故により、他人を死傷させたり、他人の物品を壊してしまい、法律上の損害賠償責任を負った場合に補償します。
尚、補償額には1億円の上限があります。
配達の車両を125cc以下のバイクで登録している Uber Eats 配達パートナーに対しては、対物賠償責任の補償請求に際し最大5万円までの自己負担金が設定されています。

一例:
・配達中に歩行者にぶつかって怪我を負わせた場合
・商品の受け渡し時に誤って料理をこぼしてしまい、注文者に火傷を負わせた場合
・配達中に注文者の自宅や第三者の車両に損害を与えた場合

傷害補償
配達中の事故により配達パートナー自身が傷害を負った場合に、医療費や入院費などの見舞金を補償します。

尚、補償額には上限があります。

    1.医療見舞金:配達中に事故が発生した際、救急車、X線検査、手術、投薬等必要な医療費用を、25万円を上限として補償いたします。
    2.死亡見舞金・葬式費用:配達中の事故により、不幸にも配達パートナーが死亡した場合、相続人は1000万円の一時金を受け取ることが出来ます。 また、葬式費用も100万円を上限として支払われます。
    3.後遺障害見舞金:配達中の事故により、不幸にも配達パートナーに後遺障害が生じた場合、最大1000万円の一時金を受け取ることが出来ます。 金額は、後遺障害の症状により異なります。
    4.1日あたりの入院に伴う見舞金:配達中の事故により、配達パートナーが怪我を負って入院し、その後当該怪我により働けなくなった場合、30日を上限として、1日あたり7500円の支払いを受け取れます。 ただし、医師による、医学的見地から就業が困難であることの証明を必要とします。
    5.配偶者・被扶養者への見舞金:配達中の事故により、不幸にも配達パートナーが死亡した場合、その配偶者や被扶養者(18才以下)は、1人あたり15万円の見舞金を受け取れます(最大3人まで)。

一例:
・配達中に車とぶつかり、自身が怪我を負った場合
・商品の受け取り時に誤って料理をこぼしてしまい、自身が火傷を負った場合
出典:Uber パートナー ドライバーの保険 – 仕組みについて – 補償範囲

ニッコリ鬼井さん

しっかりとした補償があるから、万一のときも安心だね。

解説イヌくん

本当にそう思う?問題点がないか見ていくよ。

補償の落とし穴!

対人・対物賠償責任
解説イヌくん

まずは補償額に上限があること、バイクの場合には対物事故の自己負担金5万円があることだね。

疑問な鬼井さん

自己負担金は自転車の場合は関係ないし、1億円も補償してもらえるから問題ないんじゃないの?

対物事故で賠償額が1億円までいくことは少ないですが、対人事故では賠償額が高額化しており、裁判所の認定額もその傾向にあります。対人賠償責任保険については「無制限」が望ましいところです。
また、保険会社による「示談代行サービス」がないことも、事故を起こした配達員に金銭以上の負担が生じるでしょう。事故当事者である限り、被害者への謝罪など直接表に立つ必要はありますが、具体的な被害額の計算や、関係先との交渉、連絡となると全てを自分で行うことは難しいでしょう。
イヌくん

保険会社は直接被害者と話をすることはできませんが、自由に賠償額を決められても困るので、示談交渉の進め方についてのアドバイスなどを適宜おこなうことになっていると思います。わからなかったり、心配なときは保険会社の担当者と連絡を取り、相談しながら進めるのがよいです。

傷害補償
焦る鬼井さん

もしかして傷害補償も何かあるの?。

「医療見舞金」は、事故によるケガでかかった治療費用などを実費で負担してくれる制度ですが、上限が25万円となっています。ケガの状態が重く、治療期間が長引けば、それだけ治療費がかかり、自分で負担する分が生じることもあるでしょう。
ウーバーイーツユニオンの調査では、分析対象となった事故31件のうち45.2%は打撲・擦過傷など軽いケガでしたが、頸椎捻挫や靭帯損傷などが20%、骨折が19%と全体の約4割が大きなケガを負っているそうです。またケガで仕事を休んだ期間も全体の約2割が1ヶ月超でした。
残念イヌくん

ケガで入院した場合は1日あたり7,500円の見舞金が受け取れるけど、自宅療養だと対象外のようだね。治療費よりも収入が途絶えるほうの影響が大きいかも。

この制度で最も注意しなければならないことが、「配達中の事故」のみの補償という点です。
焦る鬼井さん

まあ、会社だから仕事中しか補償しないというのはよくあると思うけど……。

ウーバージャパン社によれば「配達中」の定義とは、「本プログラムは自転車・原付バイク・バイク・軽自動車を利用する Uber Eats 配達パートナーが、配達リクエストを受諾した時点から配達が完了、またはキャンセルされるまでの間に生じた事故に対して適用されます。」としています。配達依頼の受付から完了までの間が補償対象となり、それ以外は対象外になります。


    配達依頼を受けて、商品を取りに店舗へ向かい、お客様の元へ届けるまで

    次の依頼が来るまでの待機中・休憩中、配達以外の移動(自宅との往復など)
残念イヌくん

会社員ならば労災保険(労働者災害補償保険)で、仕事中はもちろん、条件を充たせば通勤中も休憩時間中に発生した事故でのケガも補償されるけど、ウーバーイーツの配達員は「企業の労働者」ではなく「個人事業主」にあたるから、補償の範囲が限られてしまうんだ。

補償がない部分は自分で補うしかありません。自分で備えるとして、どのような保険があるでしょうか?

自分で備えるときにも注意しよう!

自転車利用者の場合

この場合は「自転車保険」の加入を検討しましょう。
自転車も全国各地で保険加入の義務化が進み、様々な商品が販売されています。基本的なプラン「個人賠償責任保険(示談代行サービス付き)+自分のケガの補償」が多いです。不足分はこの保険でカバーできます。
ただし注意点があります。個人賠償責任保険で対象となる事故は「日常生活に起因する偶然な事故」と定義されていることが多く、仕事に起因する場合は対象にならないことです。
配達が完了して自宅に戻るときや、待機中、休憩中はプライベートの要素が強いですが、他の配達員と競合しないようエリアを移動しているときなどは職務中と見做され、補償の対象外となる可能性があります。

イヌくん

この点について心配なときは、企業向けの賠償保険の1つである「施設賠償責任保険」に加入する手だてもあります。(示談代行サービスがないので注意が必要です。)

原付、バイク、軽自動車利用者の場合

賠償については「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」に加入しなければなりませんので、ある程度カバーされます。とはいえ十分とは言えませんので、任意の「自動車保険」にも加入しましょう。
補償内容は「対人賠償責任」の限度額を「無制限」に設定し、弁護士費用特約も付帯することで、事故の加害者であれば保険会社の示談代行サービスを受けられ、被害者のときは専門家である弁護士に相手との交渉を依頼することが可能になります。保険料の負担に余裕があるなら人身傷害保険をセットすることで、事故の際に被った自分のケガの治療費用や休業損害を補償してもらえます。
ここでの注意点は、免許証の色などで保険料が変わる「リスク細分型自動車保険」に加入している場合、車の使用の目的を「日常・レジャー」や「通勤」となっている場合、状況によっては補償を受けられない可能性があるところです。
特に週に4日以上もしくは1月に16日以上、仕事をするときには使用目的を「業務」としておくのがよいでしょう。

ニッコリ鬼井さん

仕事中と言わなければ大丈夫だよね。

焦るイヌくん

嘘が発覚したら補償を受けられないばかりか、保険金詐欺で刑事罰を受ける恐れもあるから良い子は絶対まねしないように!

まとめ

自分は事故を起こさないから大丈夫だと思われる人もいるでしょう。しかし、ウーバージャパン社は事故状況の詳細は発表していませんが、補償プログラムを用意していること自体、事故が発生するリスクが高いもしくは事故が頻発していると認識しているのではないでしょうか。
現在、ウーバーイーツユニオンでは補償の拡大を求めていますが、企業の負担が増大するだけに見通しは定かではありません。現実的には自分で万一の備えをする必要があります。