台風の飛来物で壊れたら誰の責任ですか?


プンプン小寧さん

プンスコプンスコ。

イヌくん

お姉さん、なに怒っているの?

プンプン小寧さん

台風で飛んできた看板が窓ガラスを割っちゃったのよ。

驚くイヌくん

それは大変だったね。

プンプン小寧さん

本当にもう頭にきちゃう。この看板の持ち主に直してもらおうかしら。

台風や突風などが発生した時、強風にあおられて飛んできた物、倒れてきた物が建物や車などにぶつかって破損する被害は各地で発生しています。
2019(令和元)年9月に発生した台風15号の強風で、千葉県にあるゴルフ練習場の鉄柱が倒壊し、近隣の建物を破壊したという出来事は覚えている方も多いのではないでしょうか。
その他にも東京電力パワーグリッド社が経済産業省に提出した資料によると、台風15号で電柱が1996本損壊しました。そのうち倒木・建物の倒壊による損壊が1477件、看板などの飛来物による損害が283件にのぼるそうです。
出典:経済産業省「台風15号による被害状況」(東京電力パワーグリッド株式会社)

イヌくん

相手に賠償請求できるかはよく考えたほうがいいよ。あと、外の植木鉢が1個なくなっているけど、どこかへ飛んで行ったんじゃないの?

戸惑う小寧さん

えっ!?

自然災害が原因の損害賠償請求はむずかしい?

そもそも法律上はどうなっているかみてみましょう。民法に根拠となる条文があります。

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

    3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

出典:e-Govウェブサイトより

笑う小寧さん

それじゃあ、看板の持ち主が賠償してくれるってことね。

焦るイヌくん

まだ早いよ。この法律では建物や塀などの土地工作物の設置や保存に「瑕疵」があったため、他人の建物や車などを破損させた場合には占有者もしくは所有者は賠償責任を負うことになってるけど、「瑕疵」がなければ賠償請求できないことになるんだ。

驚く小寧さん

えっ!どういうこと?

解説イヌくん

ここにでてくる「瑕疵」とは通常備えておかなければならない性質、性能を欠き、設置や保存方法に問題があった、つまりは安全性を欠いていることをいうよ。

疑問な小寧さん

問題があったから飛んできたんだと思うんだけど…

建物を建てたり看板などの工作物を設置する場合、建築基準法などで定められた強度を満たすようにしなければなりませんが、台風となると強風が吹きますのでどんなに頑丈にしていても飛ばされることがあります。予想できない不可抗力なことにまで賠償義務を負わせるのは酷なことでしょう。

イヌくん

老朽化などで設置した時よりは強度は落ちているかもしれないけど、ガタついていてちょっとの風でも飛びそうな状態でなければ賠償請求するのは難しいかもしれないね。
相手からの補償が難しい場合は「火災保険」風災補償が対象になるかもしれないから確認してみるといいよ。

困り顔の小寧さん

自分で直すしかないのね。

    自動車が被害にあった場合は、「車両保険」から補償を受けることが可能です。

自然災害が原因でも賠償責任を負うケース

イヌくん

とはいえ、台風で屋根瓦が飛散して損害賠償責任があるとされた判例はあるんだよ。

驚く小寧さん

それなら、うちも請求できるの?

この裁判は、1978(昭和53)年9月に発生した台風18号で北九州市内にあった住宅の屋根瓦が飛散し、周囲の建物を損壊したことに対して、被害を受けた住宅の所有者が飛散した住宅の所有者に対して修理費などを請求したものです。一審の福岡地裁では不可抗力だったとして損害賠償責任を否定しましたが、二審の福岡高裁では「屋根瓦は風速未だ一秒14.5メートルに達しない昼すぎ頃以降既に飛散し始めており、かつ台風通過後の右建物の屋根の被害状況はその附近一帯の建物の屋根がそれに比べて比較的大きかつた」として、損害賠償責任を認めました。
(福岡高裁昭和55年(ネ)155号判決)

解説イヌくん

強風の前から瓦が飛び始め、周囲の建物と比較しても被害状況が大きかったことから屋根に「瑕疵」があったとされたよ。

疑問な小寧さん

もともと屋根に問題があったの?

イヌくん

被災当時は新築から8年弱で、それまでの台風では問題なかったみたいだよ。判決では台風の影響も考慮されたようで被害額の3分の1が賠償額として認定されたよ。

困り顔の小寧さん

全部相手が補償してくれるのは難しいのね。

賠償請求されたときの保険は?

イヌくん

ところで、台風で飛んでいった植木鉢は見つかった?

笑う小寧さん

お隣の庭の隅に落ちていたのをさっき届けてもらったの。

OKイヌくん

見つかってよかったね。もしどこかの家の窓ガラスを壊していたら、賠償する必要がでてくるからね。

疑問な小寧さん

えっ?でも、自然災害での賠償請求は難しいって言わなかった?

焦るイヌくん

それは、建物などに欠陥がなく、安全性に問題がなかった場合だよ。建物に欠陥があったり、メンテナンスが不十分だった場合には判例のとおり賠償責任を負う可能性があるよ。

民法や判例にもあるとおり建物が安全性を欠いているなど「瑕疵」があった場合には、被害者に対して賠償責任を負う可能性があります。また、台風は強風ですので建物の外に置いてあるものを容易に飛ばすため、台風接近前に飛ばされそうな物を屋内に片づけるなど、被害の防止を図らなければなりません。これを怠った結果、植木鉢などが飛んで家屋や車、人などに被害をあたえたときにも賠償責任を負うことがあります。

驚く小寧さん

私の場合、もし外の植木鉢がお隣の窓ガラスを割ったら賠償しなければならないってこと!?

イヌくん

その可能性が高いね。
もし被害者から賠償請求され、法律上の賠償責任があるとなったときには「個人賠償責任保険」で補償を受けられるよ。

日常生活の事故の場面で頼りにされることが多い「個人賠償責任保険」ですが、建物の所有、使用、管理が原因で起きた事故に対しても補償を受けられます。
突風での事例ですが、自宅敷地内に立っている高さ10m超の木を長年放置したため、根元が虫食いなどで空洞化していたところに突風で倒れて隣家の一部を押しつぶしたときには、建物修理代など被害者に支払った賠償金がこの保険で補償されました。

小寧さん

建物だけでなく、庭の木などが倒れたりしたときも賠償責任があるのね。

解説イヌくん

法律上の損害賠償責任を負った場合が補償の対象だから、事故状況によっては補償対象外となることもあるよ。

    店舗用建物や住宅と店舗、事務所などが一体となった建物(店舗併用住宅)に設置された看板の場合、「施設賠償責任保険」でなければ補償されない可能性があります。

まとめ

イヌくん

自然災害は予測以上の猛威を振るうことがあるから、飛来物などで被害が起きたときの賠償責任の判断はケースバイケースになるよ。でも賠償責任を負う可能性もあるから保険で備えをしつつ、建物の補修や周囲の片づけをしたほうがいいね。

小寧さん

自分が被害にあったら「火災保険」など、周りの人に被害をあたえたら「賠償保険」でそれぞれ補償されるのね。